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【レポート】2/7 SLOW MOVMENT Showcase & Forum vol.4 ー南米・ソーシャルサーカス最前線 ー

2020 02/20 Thu

2016 年度より毎年開催しているSLOW MOVMENT Showcase & Forum。2月7日(金)に開催した第4回はテーマをソーシャルサーカスとし、国内での実施報告、南米・アルゼンチンの現場リサーチ報告などを行いました。当日の様子を音楽、アート、カルチャー関連のライター・編集の高岡謙太郎がレポートします。 

 

そもそもサーカスってなんだっけ? 

文化芸術による社会参加の取り組みを進めているSLOW LABEL。自分にとって「ソーシャルサーカス」というプログラムは初めて聞く取り組み。予備知識が少ない状態でイベントに参加したが、知らないことばかり。自分なりに噛み砕いて整理していこうと思う。

まず「そもそもサーカスがなんなのか?」ということが引っかかった。どういった文化で、どんな表現をするのか? 耳に馴染んでいるが、いまいち背景がわかっていない。
Wikipediaで調べると、「サーカス(circus)は動物を使った芸や人間の曲芸など複数の演目で構成される見世物」とある。歴史を辿ると、古代エジプト時代に生まれ、古代ローマ時代に円形の劇場で行われるようになり、道化師が参加して近代サーカスの枠組みが出来上がっていった歴史ある見世物だ。

行う曲芸の演目は、アクロバット、トランポリン、空中ブランコ、竹馬、ジャグリング、調教した動物の曲芸や火吹き芸など。修練が必要な演目も多々あり、さまざまな身体表現が行われる。類似するジャンルでは、大道芸や中国の雑技などがある。

サーカスは国によって捉え方が違ってくる。日本でのサーカスは、エンターテインメントのひとつとして一般的に認知されている場合が多い。日本にはじめてサーカスが訪れたのは1864年(江戸時代)。昭和の全盛期に興行を行っているサーカス団体は約20団体が活動し、現在は100年以上の歴史がある「木下大サーカス」を含め数を数えるほどが活動中だ。しかし欧米では、芸術性の高い表現として親しまれ、なかでもカナダの「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、コンテンポラリー・ダンスの要素も内包し、世界中で公演をしている。パフォーマンスアート(舞台芸術)のひとつとして扱われているようだ。

また、フランスの学校ではサーカスは授業の一環として行われ、日本で言うところの剣道や柔道のようなもので、スポーツとしてではなく表現的な要素もある。そういったかたちで親しまれている国もあるのだ。

 
まずは見てもらったほうが早い。シルク・ドゥ・ソレイユのオフィシャルMV

 

社会包摂型の表現(ソーシャル・インクルージョン)とは?


そして、今回のイベントの主軸となる「ソーシャルサーカス」は、直訳すると「社会支援のサーカス」。サーカスの育んできた文化から生まれた演目を用いて、社会に出ることが難しいと思っている人を育てることが目的だ。 

パントマイムやジャグリングなど修練可能なものを練習することになる。サーカス技術の修練によるリハビリテーションや教育で、参加者の心も体も変わっていくそうだ。集団創作という性質が、家族的な部分、他人同士でも家族のような関係性を作ることにつながるとも言える。

海外では、移民や貧困、女性差別などの社会課題に向けて開催するのが中心。作品を作ること自体が目標ではなく、マイノリティが参加するためのソーシャルスキルを付けるための社会包摂型の表現(ソーシャル・インクルージョン)だ。

日本では近年、多様な市民が参加することのできる社会包摂型のアートプロジェクトが増えており、障害者の社会参画という要素も注目されている。そこに、欧米圏で親しまれているサーカスの作法の転用を試みているのがSLOW LABELというわけだ。

 

ソーシャルサーカスの現状がわかる国内イベント 

前説が長くなってしまったが、今回の本題へと移りたい。

4回目となったSLOW MOVMENT Showcase & Forum。概要は、「ドキュメンタリー上映」「プレゼンテーション」「ディスカッション」。会場には100人を超える聴衆がつめかけて関心の高さが感じられた。

まずはドキュメンタリー『ダニエレ・ジャングレコ / ソーシャルサーカス』の上映から開始。ソーシャルサーカスを実践する団体や研究者のネットワーク「アルトロチルコ」を立ち上げた、イタリア人ダニエレさんが来日し、サーカスアーティストの金井ケイスケさんと共に、3人の障害のある若者と共に取り組んだプログラムを、ビデオグラファーの矢彦沢和音がまとめた映像だ。 

参加したのは、脳性麻痺のケン、ダウン症のカオリ、軽度の知的障害を持つ自閉症のヒサ。ダニエレさんと金井さんがレッスンを行い、パントマイムやピラミッドを練習した。教える側には「彼らを成長させたい。プロになるつもりで参加してほしい。そういう覚悟が必要」という思いがあり、やる気のある3人が選ばれて参加をしている。

今回、数日間のレッスンと公演を終えて3人には、「緊張が抜けて柔らかい動きが入ってきた」「嫌にならない、怒らない」「恥ずかしがりすぎて表現できなかったのが、人前で表現できるようになった」などの効果があったそうだ。この上映によってソーシャルサーカスが実際に効果があることがわかった。

 
SLOW MOVEMENT Daniele Giangreco Social Circus(短編バージョン)

 

ソーシャルサーカスに関する国内の団体も

続いて、パラ・クリエイティブディレクター/プロデューサー で SLOW LABELディレクターの栗栖良依さんによるプレゼンテーション。もともと健常者であった栗栖さんは2010年に右足に障害を持ち、2012年のロンドンパラリンピックが成功したのを見て、障害のある人とパフォーマンスができないのか?という思いが湧いた。

2014年のヨコハマ・パラトリエンナーレで、障害のある人とのパフォーマンス創作に取り組みを始めた。その経験を通して、アクセシビリティの課題が浮かびあがった。障害者は「物理的バリア」「精神的バリア」「情報のバリア」に囲まれている。そのため今までにできなかったことが多く、できないことを刷り込まれている場合が多い。そのために、まずは裾野を広げて、環境を整えて、質の高い作品を作るようになった。

そこから2015年に「SLOW MOVEMENT(スロームーブメント)」を立ち上げる。障害のあるパフォーマーのために、アクセスコディネーター(※1)やアカンパニスト(※2)とチームとなって、「人」と「技術」でクリエイションができるようになってきたという。 

2016年度からは、港区文化プログラム連携事業として、多様な区民が参加するワークショップを運営している。外国籍の児童が多い六本木中学校や、区内中学校の特別支援学級、子供家庭支援センターなどで開催し、ソーシャルサーカスでコミュニケーションが円滑になったそうだ。今後は東京で行われるパラリンピックにも関わっていくそうで、国内でも広がりを見せている。

※1 アクセスコーディネータ…障害のある人がアート活動に参加するときの物理的・心理的バリアを取り除き、参加環境を整える人
※2 アカンパニスト…障害のある人といっしょに舞台にあがり共に作品を創る人

 

南米のソーシャルサーカスを体験

やはり本場の現場も見てみたいということで、金井さんと栗栖さんは文化庁海外研修支援制度を用いて、南米のソーシャルサーカスの現場に足を運んだ。その熱意ある報告も行われた。

アルゼンチンのブエノスアイレス「シルコ・デル・スル」、チリのサンティアゴ「シルコ・デル・ムンド」などの4つのソーシャルサーカスカンパニーと、4カ国の団体による就労支援のプロジェクト「クエルダ・フィルメ」の方々に会いに行った。

南米は経済的な貧困が続く地域ということもあって、日本と全く違う社会状況でソーシャルサーカスが展開される。アルゼンチンでソーシャルサーカスが生まれたのは、1990年まで続いたピノチェト軍事政権後。アルゼンチン北部のアンデスの麓で活動するソーシャルサーカス団体は、麻薬や重機の密売がある地域で活動をする。安全に公演できたことが信じられない状況だ。ただ、路上生活者になっていたけれどサーカスで救われた人もいたり、スラムの中で受け入れられたり、警察や福祉が入り込めない場所に路上パフォーマンスの延長線にあるためサーカスが介入できるなど、サーカスならではの社会参加の形があるという話を伺えた。

第一回南米ソーシャルサーカス国際会議にも参加。アルゼンチン、ブエノスアイレスの省庁や企業関係者、また国外からも大勢が集まり、金井さんたちもワークショップを行い、日本ならではの障害者を主対象にしたプログラムに注目が集まったそうだ。

最後に、ソーシャルサーカスの魅力について、金井さんと栗栖さんの印象的なコメントで締めたいと思う。

金井さん「パフォーマンスでお客さんを惹き付けているのが社会とのつながり。言葉をかわさないで交流が生まれている。どこに行っても社会とつながっていける。自分は、サックスを吹きながらタップダンスをするオーストラリア人の大道芸と、言葉は介さずともその技を見て熱狂する日本人の姿にを見てサーカスの道へ進んだ。そうやってひとは繋がれる。アートによる社会変革を信じている」

栗栖さん「ソーシャルサーカスは、シルク・ドゥ・ソレイユのように、より美しく早く高くではなく、よりどれだけ多くの個性を集結できるかが目標。作るノウハウやプロセスに面白さがあるんです」

イベント終了後は、登壇者と来場者の交流も活発で、国内でこの分野の活動が注目されつつあることが感じられた。また、サーカスならではのユーモラスな動きで、人々の心を和ませて身体も動かすことが、国境を越えた世界的な表現ということも学べた一日であった。

 


高岡謙太郎(Kentaro Takaoka)

オンラインや雑誌で音楽、アート、カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』『ピクセル百景』など。

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