fbpx

NEWS

【レポート】SLOW CIRCUSトレーナー アメリカ視察報告

2024 10/10 Thu

国際交流基金の支援を受けて実施している日米交流事業の一環で、7/10〜16の1週間、アメリカでも5本の指に入るというサーカス団体のSANCA(School of Acrobatics and New Circus Arts)へ、Slow Circus トレーナーの定行なつみ、鈴木彩華、XIOの3名が視察に訪れました。
この時期はアメリカも夏休みの時期で、施設ではサマーキャンプと呼ばれる夏期講習が実施されています。私たちは、Every Body’s Circus (EBC) という障害や特性のある子どもを対象にしたクラスを中心に視察・参加をさせていただきました。

SANCAを訪れた初日はまず施設見学。サーカストレーニングの空間以外にも、暴れたり気が散ってしまったりしてしまう参加者を落ち着けるための部屋や、サーカス作品の視聴ができるような部屋もありました。物の配架場所がわかりやすく、ルールや、怪我に対応する掲示など、さまざまな人が参加して熱中しやすいサーカスが安全に行われるための配慮がありました。

EBCクラスは、小学校低学年くらいの知的・精神に特性のある子どもたち6人に対してコーチ3、4人という構成。綱渡りやエアリアル、トランポリン、サーカス道具操作などの種目から3種目ほど選んだ内容で、毎日プログラムは事前に組んでいるものの、子どもたちのニーズに応じてトレーナーが分かれてやりたいことに取り組めるように動いていました。

またコーチの子どもへの注意のしかたが印象的でした。ただ言うことを聞くように押さえつけるのではなく、しっかり論理立ててお願いをするという姿勢で話をし、子どもとの信頼関係を築くことができていると感じました。対生徒にも、対コーチにも、一人ひとりのコーチが自由にどんな意見を言われてもまず受け止める、という安心感が持てる雰囲気作りをしていたように思います。プログラム最終日の金曜日には、保護者への発表の機会があり、堂々と自分で選んでやると決めた技を演技する子ども達の姿は、3日間だけでも大きな成長を感じさせるもので、胸が熱くなりました。サマースクールが出会いの場になることもあるようで、最後に保護者同士で連絡先を交換するなど、人の繋がりが広がっていく様子も目の当たりにしました。

週末明けからは、EBCは身体的なサポートが必要な子どもを対象にしたクラスになり、参加メンバーが変わりました。計画に縛られすぎず、子どもが必要とすることにあわせながら、様子を見ていく1日に。コーチ同士が手話を使って視覚的にコミュニケーションを測っているのも印象的で、スローサーカスでも取り入れられそうだねと話しました。

その日はプログラムのあと、SANCAコーチから前転・倒立・側転の補助について教えてもらいました。キッズプログラムでも倒立に挑戦しており、今後アクロバットにも取り組めるようにと、彩華となつみで特訓。またトレーナー同士で練習していきたいです。

サマーキャンプと併せて、普段通りのレギュラークラスも実施されているので、いくつか他のクラスも視察・参加させていただきました。

・大人の神経サポートクラス
加齢による身体バランス低下の改善・パーキンソン病への対処を目的としたクラス。比較的高齢の女性2人の参加者にトラピーズ専門のコーチがついています。
・運動経験が少なめの人たちのクラス
EBC を担当するEchoコーチが指導するクラス。身体を動かすことに苦手意識がある/あった人たちが対象で、時間をかけて一つ一つのタスクを丁寧にやっている印象。自分の身体への認識を高めることで参加者が自信をつけていくことが出来ているようです。
・知的、精神発達面で特性のある子ども(10代前半程度)向けクラス
夏休み期間なので、初めて来る生徒がいたり、普段いる生徒がいないことも多いそう。集中が切れがちな傾向の生徒でしたが、課題の綱渡りが上手くできるよう、コーチが情報量を抑えてシンプルな言葉選びで指導をしていました。
・子ども向けジェンダー肯定クラス
ジェンダーを気にすることなく体を動かせる機会を提供することを目的として、EBCを担当しているMercuryコーチが始めたクラス。参加する生徒は長く来ていることもあってコーチと友達のような信頼関係ができ、課題にも上手く取り組むことができていた。

いずれのクラスもウォームアップから始まり、使用できる施設・用具に応じてコーチが提案する種目・参加者の取り組みたい種目に、参加者が取り組んで1時間のクラスとする構成が基本となっています。

日曜日は、Celestial Circus(12-18歳が対象の、コーチの推薦を得て奨学金をもらった子どもたちのサーカスチーム)のリハーサルを見学。2人のコーチがつき、参加メンバー自身で振付した演目やコーチが振付けた演目など、近日に控えた本番に向けて練習を重ねていました。普段は毎週日曜日、1時間サーカススキルの練習をしたのち、1時間創作の時間があるそうです。

トレーナーたちは、空中ブランコ、エアリアル、ジャーマンホイールに参加者として挑戦しました。どのクラスでも先生がシンプルに、段階を踏んで出来そうなことにチャレンジさせてくれたことがとても良かったです。「ちょっと頑張ればもっと出来そう」という感覚が、「またやりたい!」と思えるポイントかもしれません。スローのトレーナーたちも、向上心に火をつけていけるような指導を目指していきたいものです。

サーカスは「体操」「体育」の競争意識、弱肉強食の文化、ジェンダーの縛りから自由になれる場所。社会では結果で判断されることが多く、刷り込みも沢山ありますが、参加者の主体性を見極めてチャレンジを促せたり、うまくできない状況に直面しても楽しい、という体験を作れたりするのがサーカスの良いところだと思います。そして、どんな時でも前向きに思える雰囲気作りはトレーナーの腕の見せ所なはず!日々素晴らしいクラスを目の当たりにしたトレーナー3人は毎日の振り返りが深〜い時間まで続いてしまいました。ここまで時間をともにして普段の活動について意見をかわす場も少なかったので、とても良い機会でした。

そして、ソーシャルサーカスの現場に必要なのは1人1人の進歩に目を向けることだと改めて感じています。今はあまりスローの現場はテンヤワンヤなことは少ない傾向ですが、SANCAとの共同で実施したキッズプログラムも相まって今後子どもの参加が増えてくるかもしれないので、SANCAで吸収したことが発揮される日もきっと近い?!次回のレポートでは、そんな日米キッズプログラムの活動についてお伝えします。 

TOP