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【レポート】SLOW MOVEMENTイスラエル現地調査レポート

2019 04/15 Mon

SLOW MOVEMENTイスラエル現地調査レポート

「イスラエルNalaga’at Centerの事例から障害のある人との創作活動を考える」ワークショップ及びレクチャーに先立ち、調査研究員3名(栗栖良依・金井圭介・野崎美樹)はイスラエルを訪問し、イスラエルにおける障害者と文化芸術活動の実態を現地調査しました。
その様子のレポートをお届けします。

 

■視察地1 テルアビブ ヤッホ:ナラガットセンター
視察日:1月3日(木)及び8日(火)
視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者と社会をつなぐことをミッションとしたアートセンター。活動の中心となる劇場のほか、障害者が働くカフェ、レストラン、ワークショップスペース等を擁しています。視察として、施設の見学や劇場の代表作の一つであり盲ろう者がパフォーマーとして活躍する「Not by Bread Alone」の鑑賞、視覚障害のスタッフに導かれ暗闇で食事をとる「Blackout restaurant」を体験。また、日本でのワークショップ、トークに向けて、招聘アーティストのOfer Amram氏にナラガットでの活動についてのインタビュー及び打合せを行いました。

私たちは、約1年半前にイスラエル大使館へのヒアリングを行い、イスラエル国内には多数のインクルーシブアート、パフォーマンス、デザイン等の取り組みが存在し、そのどれもが先駆的と言われる欧米の国々とはまた違った独自のアプローチや社会課題を背景に取り組んでいる質の高いものであるということがわかり、大変興味を持っていました。多数ある中で、Nalag’at Centerを選んだのは、主に2点。
ひとつは、盲ろう者にターゲットを絞った取り組みであること。もうひとつは、地域における創造的な仕事の場として成立しているという点です。
わたしたちスローレーベル/スロームーブメント実行委員会が国内でパフォーマンスのワークショップを開催する際に、様々な障害種別の中で盲ろう者の参加は未だありません。他団体の取り組みとしても、盲ろうの人たちが舞台に立って動きまわるようなパフォーマンス作品もあまり見たことがありません。スローレーベルは、ワークショップやクリエイションの実践を通じて、これまで多様な障害のある人たちが障害のない人たちに混ざって共にアート活動を楽しむためのアクセシビリティを研究開発してきました。今回、Nalag’at Centerの取り組みから学ぶことで、盲ろう者が安心・安全にアート活動に参加するためのアクセシビリティを研究し、アートを通じて盲ろう者とそれ以外の人たちが社会の中で出会える機会を創出することに繋げたいと考えました。
実際に訪れたNalaga’at Centerは、観光客も多く訪れるエリアに位置するデザイン的にも洗練されたアートセンターで、舞台鑑賞やレストランに訪れる人の中には多くの観光客もいました。各種案内や字幕もヘブライ語だけではなく英語で対応していました。また、10代の若者を中心に、学校団体客も多く、地域の学校の教育プログラムの一貫としても使われていることがわかりました。施設内で働いている人の多くが、視覚か聴覚、もしくは両方に障害がありますが、それぞれの特徴が活かせる場所に配属されており、互いにサポートしながら働くことで、来場者にとっても特にストレスのないサービスを提供していました。パフォーマー兼スタッフの多くは、もともと障害者支援施設等に所属して生活していたところにキャスト募集の声が掛かったことがきっかけでメンバーに入り、継続的に関わるようになった人たち。パフォーマーとしてお金を稼いで生きていくのは、たとえ障害がなくても簡単なことではありません。障害があれば尚のことです。このように、アート活動の場と仕事の場が同じ場所にあり、持続可能な形で経営していることは素晴らしいことだと思います。

 

■視察地2 Kefar Yehoshua:イスラエル・サーカス・スクール
視察日:1月4日(金)
イスラエルにおいてソーシャル・サーカスを実践する唯一の団体。知的障害者向けのプログラムの他、ユダヤ系とアラブ系のコミュニティの相互理解のためのサーカスプログラム等を展開しています。プログラムの見学及びディレクターのAmira Harris氏へのヒアリングを行いました。

私たちはこれまで欧州、北米、南米、アジアと様々な国のソーシャルサーカスを視察してきました。ソーシャルサーカスが実践されている背景には、必ずその地域ならではの社会課題が存在しています。イスラエルもまた、その複雑な社会事情から民族や宗教といった分断や紛争が絶えず繰り返されています。あらゆる障壁を超えるソーシャルサーカスの力を世界各地で目の当たりにしてきたので、イスラエルではどのようにこのソーシャルサーカスが活用されているかに興味がありました。
実際に訪れたイスラエル・サーカス・スクールは、住宅街にある小さなサーカス学校でした。欧州や北米で見てきたプロを目指すアーティストを養成するような学校ではなく、地域住民が健康増進やレクリエーション目的で通うカルチャーセンターのような場所です。この住宅街は、アラブ系とユダヤ系の人々が暮らしています。イスラエル・サーカス・スクールは誰でも参加できる場所となっているため、アラブ系の人もいれば、ユダヤ系の人もいて、共にレッスンを受けています。訪問前の予想では、何かこうした民族や宗教といった所属を超えることを意識的に行う活動や創作を行なっていると思っていたので、その点においては少し期待とは違った内容でした。しかし、参加者の中にはそれぞれの事情や生きづらさを感じている人たちが多く、そういった人たちにとっての居場所として機能していることには違いないし、身体を使い、信頼関係を育むソーシャルサーカスが有効に働いていることは間違いないと思いました。

 

■視察地3 エルサレム:ALYN hospital
視察日:1月8日(火)
小児専門のリハビリ病院。アートやダンス、音楽等のプログラムをリハビリに取り入れており、「メディカル・クラウン」も常駐しています。施設の見学及び病院スタッフRachel Lavie氏、Ruth Palmor氏からのヒアリングを行いました。

スローレーベル/スロームーブメント実行委員会では、2016年から理学療法や作業療法などの専門家と開発チームをつくって、障害者のための心身機能向上を目的としたトレーニングプログラムの開発に取り組んできました。2018年にはサーカスのメソッドを用いてリハビリテーションを実践しているカナダ人の作業療法士フレデリック・ロワゼル氏を招聘して、基調講演とワークショップも開催しました。これらの活動を通じて、スローレーベルがこれまでアート活動として行なってきた各種ワークショップのリハビリテーションとしての応用について高い可能性を感じており、今回もアートとリハビリテーションという視点のもとALYN hospitalを訪問させていただくこととなりました。
これまで、日本国内でも病院内で活用されているアート活動として、アートセラピーやホスピタルアートといったものはよく耳にしてきました。今回、訪問した病院はそのどれとも違うスケールでアートや各種レクリエーションを展開している病院だったのです。「病院」というよりむしろ「遊び場」という呼び方の方がふさわしいのではないかと思うほど、楽しそうな空間とプログラムで溢れていました。病院としての外来・治療スペースは一部あるものの、その他のスペースは全てアート、フィットネス、プール、e-スポーツ、お料理、動物飼育、園芸など、それぞれのテーマや目的に合わせた部屋に分かれており、担当の医師やセラピストと相談しながら自分の目的や興味にあった方法でリハビリに取り組めるようになっていました。院内の医師やスタッフも、白衣やセラピストのユニフォームは着ていない。下肢に障害がある患者が院内を移動するために使うモビリティも、車椅子には限らず、三輪車や手で漕ぐものなど、デザインも可愛いらしく楽しげなものばかりで、思わず乗ってみたい!と思うようなものばかり。院内の一角にはイノベーションセンターが併設されており、国内外の企業と連携して障害のある人が日常生活を送る上で必要な治具や道具を研究開発する活動などを行なっていました。私たちが訪問した時には、物資や所得が少なく、路面の舗装もされていないアフリカの地域で、安く簡単に作れる軽量車椅子の開発などを行っていました。
日本からもアーティストを派遣し、レジデンス等を行えると、面白い作品や商品が生まれるのではないかと思いました。また、日本の医療福祉関係者にもぜひこうした病院の存在を知ってもらいたいです。

帰国後、上記の視察を経てスローレーベル/スロームーブメント実行委員会で実施したプログラムのレポートはこちら
▶︎【レポート】イスラエル Nalaga’at Centerの事例から障害のある人との創作活動を考えるワークショップ
▶︎【レポート】イスラエル Nalaga’at Centerの事例から障害のある人との創作活動を考えるトークインベント

主催 : 文化庁(平成 30 年度戦略的芸術文化創造推進事業)、スロームーブメント実行委員会
特定非営利活動法人スローレーベル
共催:港区(平成30年度文化プログラム連携事業)
助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
協力:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター
beyond2020認証プログラム
後援:イスラエル大使館、厚生労働省

調査研究員:栗栖良依・金井圭介・野崎美樹
実施日程2019年1月2日(水)〜1月9日(水)

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