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【レポート】青木涼子さんとアンプリファイド・エレファンツの邂逅

2021 03/05 Fri

2月某日、Showcase&ForumのPRAT2で要となる青木涼子さんとアンプリファイド・エレファントが初めて顔合わせをしました。

青木涼子さんは著名な現代音楽の作曲家たちと能の声楽「謡」を素材にした新しい楽曲を発表し、注目されている能声楽家です。
そして、「アンプリファイド・エレファンツ(The Amplified Elephants)」は、オーストラリアのメルボルンを拠点に活動する障害を持った人たちで構成されるサウンド・アート・アンサンブル・グループです。
Showcase&Forumでは東京とメルボルンをインターネット中継で繋ぎ、能古典『羽衣』を青木さんが謡い、アンプリファイド・エレファンツが演奏を重ねます。

コロナ禍だからこそ実現したこのパフォーマンス、顔合わせももちろんインターネット上で行います。

まず、画面越しにそれぞれの自己紹介から始まりました。
一人一台のパソコンを使っている私たちと違って、指導者のジェイムスさんのパソコンをプロジェクターで映してメンバーで共有しているアンプリファイド・エレファンツ。
自己紹介をしようと前に出てくるのですが、パソコンのカメラではなくスクリーンの方に向かって手を振ってしまうのはご愛敬です。


(ジェイムスさん(左)に「カメラはこっちだよ」と助言をもらって振り返るメイガンさん(右)。)

それぞれの自己紹介の後、ジェイムスさんがアンプリファイド・エレファンツのメンバーが使用している楽器紹介をしてくれました。
中でも、目を引くのが「オーディオ・インターフェース」と呼ばれる種類の楽器です。
このオーディオ・インターフェースは、ジョナサン・ダックワーズ博士(RMIT大学准教授)が外傷性脳損傷者のリハビリテーションのために開発したデバイスで、スクリーンに触れることで様々な音が出ます。
アンプリファイド・エレファンツが使用しているオーディオ・インターフェースは、そのリハビリテーション用とは別で開発された彼ら専用の楽器。
画面両端でそれぞれ操作できるようになっていて、ひとつのオーディオ・インターフェースで二人まで演奏することができます。


(ジョナサン・ダックワーズ博士が開発した「オーディオ・インターフェース」。画面両脇に表示されている記号によって出る音が異なる。)

スマートフォンの普及に伴い、我々にも身近なものになったタッチスクリーンですが、楽器に取り入れられているのを見るのは初めて。
青木さんたち日本チームは興味津々です。

スクリーンに表示されている様々な記号は、それぞれ異なった音が出るボタンのような役割をしていて、奏者が記号に触れると、その記号が画面上に表示され動きながら音が変化していきます。
その記号を指で動かしたり、大きさを変えたりしながら演奏します。
各記号にはあらかじめ録音された怒りや悲しさなどのルールに則った「人の声」が入っており、設定によって声の性別が選べ、女性の声も男性の声も出ます。


(オーディオ・インターフェースについて質問する青木さん。アンプリファイド・エレファンツの演奏の音がすべて人の声という点に強く興味を持った様子。)

カラフルな幾何学模様が生き物のように走り回る画面は、見ているだけで面白く、それだけでもひとつのショーのようです。
動く模様を指で捕まえ、ほかの模様に当てると音が変化し、指で模様を大きくすると音が大きくなったりと、操作法は様々ですが、ころころと変化する画面と音がとにかく面白い!
操作法を説明してくれたジェイムスも「これはやっていて単純に楽しいんだ」と本音をポロリ。
機会があれば、ぜひ演奏してみたい楽器です。

そして、アンプリファイド・エレファンツから初対面の青木さんへ質問タイム。
……のはずが、メンバーは口々に青木さんの謡を聴いた感想を伝えます。


(青木さんに謡の感想を伝えるアンプリファイド・エレファンツのメンバー。ダニエルさん(左上)・エスターさん(右上)・ティーガンさん(左下)・ロビンさん(右下)。)

メンバーからは、初めて能という音楽に出合った興奮が伝わってきます。
「Peaceful(平穏)」「Calm(穏やか)」「like a in an angel(天使みたい)」「quiet tone(静かな雰囲気)」「like a in the dream(夢の中のよう)」など、メンバーがそれぞれに感じたことを青木さんに話します。

中には、青木さんの謡を真似て歌って披露するメンバーもいて、その様子に日本チームから思わず笑みがこぼれます。


(謡『羽衣』を聴いた感想を嬉しそうに伝えるロビンさんが、「私もうまいでしょ?」と真似て歌う姿に微笑む青木さん。)

この日のミーティングは始終和やかな雰囲気の中進められ、初対面とは思えないほど打ち解けていました。
最後に2月末に行われる予定のリハーサルに向けて、演奏の構成やポイントなどを確認して終了。
この実験の様子についても、近日中にレポートを更新しますのでお楽しみに!

青木涼子さんとアンプリファイド・エレファンツのパフォーマンス「羽衣」が行われるShowcase&Forum。
観覧の申し込みはこちらから。

 



プロフィール


能声楽家
青木涼子

世界の主要な現代音楽の作曲家と共に、能の声楽である「謡」を素材にした新しい楽曲を発表している。これまでに19ヵ国50人を超える作曲家が楽曲を提供しており、世界15ヵ国にてオーケストラとの共演、オペラ出演を行っている。東京藝術大学音楽研究科修士課程修了(能楽観世流シテ方専攻)。ロンドン大学博士課程修了。2015年度文化庁文化交流使。2019年度第11回「創造する伝統賞」受賞。港区観光大使。
公式サイト

 


サウンドアートアンサンブル
アンプリファイド エレファンツ/ The Amplified Elephants

サウンドアーティスト・ジェイムス・ハリック/ James Hullick が代表を務める、知的障害者、青少年、若手アーティスト等による新しい音楽活動を支援する団体ジョルトアーツ/ JOLT Arts Inc内のパフォーマンスグループ。オーストラリア・メルボルンを拠点に活動を行っている。豪日交流基金等の支援により、日本での音楽祭の開催を行った経験も持つ。知的障害を持つアーティストで構成されており、作詞・作曲・歌・パーカッション・シンセサイザー・トランペット・ギターなど楽器演奏や作曲など音楽活動を行う。ジョナサン・ダックワーズ博士ともクリエイティブな関係を築き、インタラクティブなタッチスクリーンのオーディオ・ビジュアル機器を使った作品やワークショップを数多く行っている。2019年立命館大学映像学部望月茂徳准教授による訪問の際に、開発したオーディオ・ビジュアルデバイスの体験会と今後の協力について議論を行っている。
公式サイト(英語)

 

インタラクティブデザイナー/ RMIT大学准教授
ジョナサン・ダックワーズ/ Jonathan Duckworth

オーストラリア有数の工科大学であるRMIT大学に所属しながら、外傷性脳損傷者のリハビリテーションのために、認知障害および運動障害のある参加者が他者と協調作業を行えるためのテーブルトップ型デジタル・オーディオビジュアルツール「EDNA」および「Resonance」の開発を行ってきている。2019年より立命館大学映像学部望月茂徳准教授と「インクルーシブなデジタルメディアの開発と検証:障害のある人のための創造的な活動とリハビリテーションのデザイン」について共同研究を行っている。
公式YouTubeチャンネル

 

メディアアーティスト/ 立命館大学准教授
望月茂徳

千葉県出身。筑波大学大学院システム情報工学研究科単位取得。博士(工学)。フラクタル画像処理技術などを学んだ後、アートとテクノロジーを結びつけるクリエイティブ・テクノロジーについて関心をもち、近年は障害や高齢者、子供を包摂するデジタルメディアの研究を立命館大学にて行っている。『劇団ティクバ+循環プロジェクト』(KYOTO EXPERIMENT2012) 『光のコンパス:まるの王様、だーれだ!』など。独立行政法人情報処理推進機構より「天才プログラマー/スーパークリエータ」認定。立命館大学映像学部准教授。SLOW LABELでは、SLOW MOVEMENT で登場する「音を奏でる電動アシスト車椅子-&Y01-」の開発や、SLOW ACADEMY in 未来館などに参加。
Beyond SLOW記事

望月 茂徳さん 第1回

 

サウンドアーティスト/ Jolt Arts. Inc代表
ジェイムス・ハリック/ James Hullick

2006年より、障害を持つ人々のためのサウンドアートアンサンブルであるアンプリファイド エレファンツの指導役を務める。2008年には、RMIT大学在学中にジョルトアーツ/ Jolt Artsを設立。その後、ジョルトアーツはジェイムスの功績により、東京を含む国際的な6都市で『ジョルト・フェスティバル』を開催するまでに成長した。現在、指導者として活躍する傍ら、サウンドアーティストとしてインタラクティブデザイナーのジョナサン・ダックワーズとデュオと組む一方、ジョルトアーツに所属するパーカッション・ノイズデュオの『ローター アセンブリー』のメンバーとしても活動を行っている。
公式サイト(英語)

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